第1 はじめに
運送の委託取引を行う場合、取引の性質や当事者の資本金額、行為態様等によっては、下請法、物流特殊指定、独占禁止法が重複して適用されるおそれがあります。
以下では、各規制が適用される要件や禁止行為、各種規制の関係性について、解説していきます。
第2 下請法
1 下請法とは
下請法は、親事業者による下請事業者に対する不当な取扱いを取り締まり、下請事業者の利益を保護する法律です。
同法は、適用対象となる下請取引の範囲を①取引の内容(取引要件)と②取引当事者の資本金(当事者要件)の両面から定めており、①②を満たす下請取引の親事業者に対して一定の義務を課しています。
2 ①取引要件
まず、①取引要件について、説明させていただきます。下請法の規制対象となる取引は、「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」の4つに大別されるところ、運送の委託取引は、「役務提供委託」に該当します。
役務提供委託は、「事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」と定義されています。ここで注意すべきなのが、役務提供委託として規制される役務とは、委託事業者が他社に提供する役務のことであり、委託事業者が自ら利用する役務は含まれないという点です。
例えば、荷主から貨物運送の委託のみを請け負っており、貨物の梱包作業の委託は請け負っていないが、自らの運送作業に必要なために梱包作業を他の事業者に委託に出す場合、この梱包作業を他の事業者に委託する部分については下請法上の役務提供委託には該当しないということになります。
3 ②当事者要件
次に、②当事者要件についてですが、運送の委託取引の場合、
・親事業者の資本金が3億円超+下請事業者の資本金が3億円以下
もしくは
・親事業者の資本金が1000万円超かつ3億円以下+下請事業者の資本金が1000万円以下
という要件を満たす場合に、下請法が適用されます。
4 トンネル会社規制
下請法の適用の有無は、取引を行う当事者の資本金に着目して判断されます。そのため、親事業者が子会社を介して、運送業者に対して運送の再委託を行う場合、子会社が上記3の②当事者要件を満たさない限り、原則として下請法の適用はないことになります。ただ、それでは、容易に下請法を脱法できてしまうおそれがあります。
そこで、下請法は、本来下請法の適用を受けるべき事業者が、当事者要件を満たさない子会社に対して発注する場合、①親会社が役員の任免、業務の執行等について子会社を実質的に支配しており、かつ、②当該子会社が、親会社から下請取引の全部または相当部分について他の事業者に再委託するときには、当該子会社を親事業者とみなすこととしています。これを「トンネル会社規制」といいます。
そのため、子会社を介して運送の委託取引を行う場合には、この点について注意する必要があります。
5 禁止事項・ペナルティ
下請法の適用を受けると、親事業者には様々な規制が課されます。
具体的には、下請代金の支払期日が過ぎているにもかかわらずこれを支払わなかったり(下請代金の支払遅延)、下請業者に著しく低い下請代金を押し付けたりすること(買いたたき)などが禁止されています。
もし、親事業者がこのような規制に違反した場合、違反事業者に対して公正取引委員会から勧告・公表がなされたり、最大で50万円の罰金が科されたりするおそれがあります。
第3 物流特殊指定
1 物流特殊指定とは
「物流特殊指定」とは、荷主と物流事業者の取引における運送・保管サービスの取引に関する優越的地位の濫用を効果的に規制するため、独占禁止法に違反するおそれのある行為事例を指定したもので、独占禁止法上の公示にあたります。
公正取引委員会は、物品の運送又は保管を委託する取引のうち、荷主と物流事業者との取引について物流特殊指定を運用し、物流事業者間の再委託取引については下請法を運用することで、物流分野全体の取引の公正化に努めています。
2 物流特殊指定の対象となる取引
物流特殊指定の対象となる取引も、下請法と同様に、①取引要件と②当事者要件によって決まります。
⑴ ①取引要件
取引の内容として、荷主から物流事業者に委託されている取引の内容が運送サービス又は倉庫における保管サービスであることが必要となります。
⑵ ②当事者要件
・荷主の資本金が3億円超+物流事業者の資本金が3億円以下(資本金3億円超の法人の子会社を除く)
・荷主の資本金が1000万円超かつ3億円以下+物流事業者の資本金が1000万円以下(資本金1000万円超の法人の子会社は除く)
・取引上の地位が優越している荷主+取引上の地位が劣っている物流事業者
この3つのうちのどれかに該当することが必要となります。3番目の取引上の優劣の判断に際しては、荷主と物流事業者の関係ごとに、取引依存度、荷主の市場における地位、取引先変更の可能性等を総合的に考慮します。
3 禁止事項
物流特殊指定の規制対象となる荷主は、下請法と同様に、代金の支払遅延や買いたたきなどの行為が禁止されます。
荷主に物流特殊指定上の違反行為が認められた場合、公正取引委員会が違反行為を是正させる措置を講ずることになります。
4 トンネル会社規制
物流特殊指定は、下請法と同様に、「トンネル会社規制」を有しています。すなわち、ある会社が、その物流子会社を通じて運送サービスまたは倉庫における保管サービスを委託する場合、物流子会社が荷主とみなされるので注意が必要です。
第4 優越的地位の濫用
1 優越的地位の濫用とは
取引上優越的な地位を有している当事者が、その地位を利用して、相手方に対し、正常な商慣習に照らして不当な不利益を与える行為を優越的地位の濫用といいます。
2 要件
⑴ 優越的地位
優越的地位が認められるかは、公正取引委員会が公表しているガイドラインにより判断されます。具体的には、当事者の取引依存度、当事者の市場における地位(市場シェア、順位)、取引先変更の可能性、その他一方当事者が当該取引を行う必要性等を総合的に考慮します。
⑵ 濫用行為
濫用行為としては、①購入・利用の強制、②経済上の利益を提供させること、③相手方に不利益な取引条件を設定等することの3つが定められています。
物流特殊指定に禁止行為として列挙されたもの以外の行為であっても、行為の相手方に対して正常な商慣習に照らして不当な不利益を与えるものと評価できる場合には、優越的地位の濫用に該当するものとして独占禁止法違反になる可能性があるため、注意する必要があります。
3 ペナルティ
優越的地位の濫用行為があった場合、公正取引委員会から、当該行為を是正させる措置を命じられたり(是正措置命令)、一定の制裁金の納付を命じられたり(課徴金納付命令)する可能性があります。物流特殊指定との違いは、課徴金納付命令が発せられるか否かにあります。
また、排除措置命令に従わない場合には、「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」という刑事罰が科される可能性もあります。
第5 終わりに
以上のように、運送の委託取引を行う場合、下請法、物流特殊指定、優越的地位の濫用規制が重複して適用されるおそれがあるため、特に注意が必要です。
これらの規制の適用を受けないか不安を抱えている方は、この分野に詳しい弁護士にご相談されるのがよいでしょう。
Last Updated on 2024年1月22日 by segou-partners-logistic