1 はじめに
倉庫に荷物・商品を保管している場合には、別の者に当該荷物や商品の所有権を移すことが必要な場面もあるでしょう。その場合には、倉庫業者に対し、名義変更の依頼を行うことになります。
では、この名義変更の手続きを、法律的に整理した時には、どのような行為になり、法律上有効に名義変更が認められるためには何が必要なのでしょうか。また、名義変更前に発生した保管料は、名義変更によって譲り受けたものに引き継がれるのでしょうか。
この記事では、これらの点について解説していきます。
2 名義変更の法的性質
⑴ 名義変更を法律的に説明すると
倉庫に物を預ける契約は、寄託契約という契約類型になります。物を預ける側を寄託者、預かる側を受託者といいます。
名義変更とは、倉庫業者が寄託契約の目的物を引き渡すことなく、倉庫内に在庫した状態で、寄託者を譲渡人から譲受人に変更することをいいます。名義変更の手続きを、法的に整理すれば、譲渡人から譲受人に寄託者の地位を移転するということになり、「契約上の地位の移転」というものであるとされています。
⑵ 契約上の地位の移転はどのように成立するのか
「契約上の地位の移転」について規定した民法539条の2は、「契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾した時は、契約上の地位は、その第三者に移転する」としています。
すなわち、譲渡人と譲受人の間での合意に加えだけではなく、倉庫業者の合意があってはじめて、契約上の地位が移転し、名義変更が認められることになります。
実務上、名義変更の際には、譲渡人・譲受人の両方が署名押印した名義変更依頼書を提出し、それに倉庫業者が同意をすることになります。譲渡人は、名義変更依頼書を提出した時点で契約から離脱できるというわけではなく、倉庫業者が同意をした時点で寄託者ではなくなるのです。
倉庫業者は、譲受人が、継続した取引先でない場合等には与信調査等を行い、問題がなければ同意をすることとなるでしょう。倉庫業者が同意した場合には、名義変更完了通知書を発行します。
⑶ 荷渡指図書による名義変更との違い
倉庫業者は、荷渡指図書により名義変更を請求される場合があります。しかし、荷渡指図書による名義変更は、倉庫業者に対して、自己の指定した荷渡先へ受寄物の引き渡しを依頼する証書に過ぎません。荷渡先は、荷物を受け取る権利を得るだけで、寄託者としての地位が移転しているわけではなく、保管料等の債務が移転することもありません。
3 名義変更前に発生した保管料はだれが払うのか
契約上の地位が移転した後に発生する保管料は当然譲受人が支払うことになります。しかし、仮に移転前の保管料について、譲渡人が支払いを怠っていた場合、倉庫業者は譲渡人と譲受人のどちらに請求することができるのでしょうか。
この点については、地位移転契約の解釈によるものとされ、当事者の意思が明確でない場合には、移転される契約の類型に応じた当事者の合理的な意思解釈によって判断すべきであるとされます。地位移転の契約書に記載がある場合がわかりやすいですが、ない場合には交渉の経緯や地位移転の代金等から判断することになるでしょう。しかし、地位移転契約に直接かかわっていない倉庫業者がそれを知るのは困難ですし、手間と時間もかかることとなります。
そこで、譲受人に対して、譲渡人の保管料支払債務について譲受人にも債務を引き受けてもらう(併存的債務引受け)ことや、連帯保証をしてもらうことを条件に、契約上の地位移転を承諾するという方法があります。
そうすることで譲受人に対しても名義移転前の保管料を請求することができるようになるため、保管料を回収できなくなるリスクは低下します。
4 おわりに
この記事では、名義変更の法的性質についての解説と、倉庫業者が名義変更前の債務を確実に回収する方法について解説しました。
名義変更の際などに、倉庫に関するトラブルが発生した場合には、倉庫業や運送業に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。
Last Updated on 2024年2月21日 by segou-partners-logistic