第1 貨物自動車運送事業法とは
「貨物自動車運送事業法」は、貨物の運送に関する自動車運送事業を規制する法律です。貨物自動車運送事業が適正に行われることを確保するために、運営者や運転者に対して義務や規制を設け、消費者保護や安全確保を目的としています。
例えば、貨物自動車運送事業を営むためには、事業者は国土交通省または都道府県の許可を受ける必要があります。この許可を受けるためには、事業者は一定の基準(例えば、経営の安定性や車両の安全性など)を満たす必要があります。他にも運転者の要件や車両の管理、運賃の設定など様々な遵守事項が設けられているところです。
同法を一部改正する法律が、令和6年4月26日に成立し、同年5月15日に公布されています。公布後1年以内に改正法が施行されることが決まっていますので、物流事業者は今後の動きについて要チェックです。
第2 貨物自動車運送事業法改正の背景
物流業界は長年にわたり、人手不足や過重労働の問題に悩まされてきました。特に、ドライバー不足は深刻であり、過労運転や長時間勤務が問題視されています。また、働き方改革の進展に伴い、過労防止や労働環境の改善が求められています。これらに対応するため、貨物自動車運送事業法の改正が必要とされました。
第3 貨物自動車運送事業法改正の影響
貨物自動車運送事業法の改正は、物流業界に様々な影響を与えています。以下に主要な影響をいくつか挙げて説明します。
1 労働環境の改善
労働環境の改善は、改正の大きな目的の一つです。改正後、運転手の労働時間に関する規制が強化され、過労防止に向けた取り組みが進められました。具体的には、運転手の労働時間を適切に管理し、長時間運転や過重労働を避けるための制度が設けられました。
これにより、ドライバーの労働環境が改善され、過労や事故のリスクが減少します。また、長期的には物流業界への人材確保にもつながります。他方で、労働時間制限や休息時間の厳格な規制により、業務の柔軟性が低下する可能性があり、特に繁忙期においてはスケジュールの調整が難しくなることがあることが指摘されています。
2 物流業務の効率化とデジタル化
物流業界の効率化やIT技術の導入を進めるための規制が強化され、デジタル化が進んでいます。例えば、運行管理システムやトラッキング技術の導入、運送契約の電子化などが奨励されています。
これにより、物流の透明性が向上し、効率的な運行が実現します。運送業者はより精緻な運行計画を立てることができ、コスト削減やサービス向上が期待できますが、その反面、中小の事業者にとっては、デジタル化に必要な投資が負担となることが指摘されています。
3 運賃や契約条件の透明化
荷主と運送業者の間で不当な運賃の引き下げや不平等な契約条件が問題視されており、改正により運賃の透明性が高まり、契約の公平性が確保されることが求められています。
第4 貨物自動車運送事業法に違反した場合
1 許可・登録の取り消しや停止
貨物自動車運送事業法に違反した場合、最も重い措置として、運送事業者の許可や登録が取り消されたり、一時的に停止されたりすることがあります。これにより、事業者は運送業務を行うことができなくなります。
2 罰金
貨物自動車運送事業法に違反した場合、罰金が科せられることがあります。これは、法令違反が比較的軽微な場合に適用されます。罰金額は、違反の内容によって異なります。
3 懲役刑
より重大な違反があった場合や特に悪質な場合には懲役刑が科されることもあります。これは、運送事業において安全や公共の利益を重大に損なうような行為に対する厳しい処罰です。
4 改善命令や指導
重大な違反に至らない場合でも、行政機関は事業者に対して改善命令や指導を行うことがあります。この場合、事業者は指示に従い、問題を改善する必要があります。
5 運転者への処罰
事業者だけでなく、運転者が個別に法令を違反した場合にも罰則が科せられます。運転者が法令を遵守していない場合、特に安全運行を妨げるような行為があった場合には、運転者個人に対しても罰金や懲役刑が科されることがある点に注意が必要です。
第5 貨物自動車運送事業法改正を踏まえた企業の対策
1 労働環境の改善と働き方改革
改正により、運転手の過労防止や労働時間管理が厳しく規定されています。企業は、ドライバーの労働環境を改善し、法令に従った労働時間の管理が求められます。会社としては、今まで以上に運転時間の管理を強化するとともに、過労を防ぐためのシフト制やフレックスタイム制度の導入を検討することも視野に入れる必要があるところです。
2 運行管理と安全性の確保
運行状況をリアルタイムで監視・管理できる運行管理システムを導入し、ドライバーの運転状況を把握したり、事故防止のためにドライバーに対する安全運転教育を定期的に行い、ハザード予測や緊急対応策を学ぶ機会を提供したりするなど、運行管理と安全性確保の両立を図る必要があります。
3 デジタル化と運行管理の効率化
上述した運行管理ともかかわりますが、運行管理システムを導入することで運行管理を効率化し、運行状況や運転手の労働時間をリアルタイムで把握することで運行スケジュールや輸送の最適化を行うことが考えられます。データ分析を活用すれば、車両の走行データや運転データを分析し、運行の改善点を抽出することで運行効率の向上やコスト削減を目指すことも可能です。
また、運送契約や荷物の受領証明書を電子化し、ペーパーレス化を進めることにより、事務作業の効率化とミスの防止を図ることも考えられるでしょう。
第6 最後に
ここまで貨物自動車運送事業法の改正の背景や、事業者として取り組まなければならない対策等について概観してきました。今後のどのような対策を進めていくにせよ、それが法律に則ったものとなっているかの確認は必須です。お困りの際には、できるだけ早い段階で、物流に詳しい弁護士への相談をご検討ください。
Last Updated on 2025年1月20日 by segou-partners-logistic