運送業界の現状
運送業界は慢性的な人手不足や労働環境の厳しさが課題となっています。特にドライバー不足は深刻で、高齢化や若年層の離職率の高さがその背景にあります。また、いわゆる2024年問題(労働時間規制の強化など)により、労務管理の厳格化が求められ、ドライバー不足に拍車がかかっています。
そこで、本記事では、これ以上のドライバー不足に陥らないために、運送業界で従業員定着率を向上させるための対策を解説します。
従業員定着率が低下する要因
従業員定着率を向上させるためには、まず、従業員定着率が低下する要因を押さえておくことが重要です。
(1)過酷な労働環境
長時間労働や不規則な勤務時間が主な要因です。ワークライフバランスを重視する若年層に敬遠される傾向にあります。
(2)荷待ち時間の長さ
荷主側での効率的な受け入れ体制が整っていない場合、ドライバーが長時間待機することになり、不満を招きます。
(3)キャリアパスの不明確さ
昇進ルートやスキルアップの機会が少なく、将来性を感じられないことが離職につながります。
(4)教育体制の不備
新人教育が十分に行われず、プレッシャーや不満を抱え退職するケースも見られます。
従業員定着率低下がもたらすトラブル
従業員定着率が低下すると、社会全体や会社に、以下のような悪影響を及ぼします。
(1)人手不足による業務遅延
商品がしかるべきタイミングで配達されず、経済全体が滞る可能性があります。
(2)事故リスクの増加
経験不足のドライバーを採用することを余儀なくされるため、重大事故発生リスクが高まります。
(3)コスト増加
採用・教育コストがかさみ、経営負担が増大します。
定着率を上げるための取り組み
このような悪影響を避け、従業員定着率を向上させるためには、以下のような取組が有効であると考えられます。
(1)労働環境の改善
労働時間管理を適正化し、休息時間をきちんと確保しましょう。休息時間を確保することは、従業員定着率の向上だけでなく、事故防止の観点からも重要です。
また、いわゆる働き方改革を導入し、多様な勤務形態を提供することも重要です。短時間勤務のドライバーや、短距離/長距離配送のみのドライバーという枠を設けることで、これまで運送業界に取り込めていなかった人材を採用することが可能になります。
(2)荷待ち時間削減
荷主と連携し、荷物の積み下ろしを予約することで、荷待ち時間を削減することができます。
(3)動態管理システム活用
リアルタイムでトラック位置情報を把握し、配車計画を最適化することで効率的な運行を実現します。
(4)荷役作業効率化
パレットの規格を統一するなどすれば、荷積み・荷下ろしにかかる時間も削減することができます。
(5)キャリアパスと教育体制の整備
昇進ルートやスキルアップ研修を明確化することで、ドライバーが自身のキャリアパスを描きやすくなります。将来に対する漠然とした不安感を解消することで、離職防止につながります。
また、新人研修プログラムを充実させることで、新規採用を増やすとともに、新人の早期戦力化を図ることができます。
(6)法務面での整備
就業規則や雇用契約書を見直し、労働基準法に基づいた適切な給与体系と勤務条件を整備します。こうした整備の過程で、会社側の規範意識も高まり、労務トラブルによる離職を防止することができます。
また、「就業規則を見たこともない」という会社も多い中、就業規則等がきちんと整備されているということは、採用面でも有利に働きます。
(7)福利厚生の充実
健康診断やメンタルヘルスケア制度の導入し、ドライバーの健康を確保します。体調不良で離職するドライバーを減らすことは、ドライバー不足を悪化させないために重要です。
また、ドライバー専用休憩施設や福利厚生施設を設置することで、ドライバーの満足度を高めることも考えられます。
自社で改善する際の注意点
(1)現場との連携
現場の実情と合わない取組をしても意味がありません。ドライバーの意見を反映した施策を実施することは、ドライバーの帰属意識を高める意味でも重要です。
(2)法令遵守
一見素晴らしい取組でも、労働基準法や安全衛生法などの関連法規に違反していては、トラブルのもとになります。法に基づいた対応を行うことが重要です。
(3)長期的視点
短期的な改善だけでなく、持続可能な施策を計画する必要があります。
弁護士へ依頼するメリット
(1)法的リスク回避
就業規則や契約書の整備など、専門知識によるサポートでトラブル回避が可能です。
(2)紛争時に備えた対応
「未払い賃金問題が発生したらどうなるか」など、紛争発生時の実情を踏まえた取組みを提案することができます。そのため、万一紛争が発生した場合も迅速かつ適切に対応できます。
まとめ
運送業界では、従業員定着率向上は単なる経営課題ではなく、事業継続性にも直結する重要事項です。特に荷待ち時間削減など具体的な改善策は、ドライバーへの負担軽減と企業全体の効率化につながります。
法務対策と現場改善を両輪とする取組に、ぜひ弁護士の活用をご検討ください。

Last Updated on 2025年5月7日 by segou-partners-logistic