近年、世界的な原油価格の高騰や為替の変動により、トラック運送業をはじめとする物流業界では燃料価格の上昇が深刻な問題となっています。こうした状況下で、親事業者が下請事業者に対し、燃料価格が上がっても従来の運賃水準を据え置く、あるいは値上げ交渉に応じないといったケースが散見されます。
このような対応は下請代金支払遅延等防止法(以下、「下請法」といいます。)に違反しないのでしょうか。以下、解説します。
1 結論
下請事業者が、燃料価格の上昇を理由に運賃の値上げを申し入れたにもかかわらず、親事業者が全く協議を尽くさずにこれを拒否した場合、「買いたたき」として下請法に違反する可能性があります。
2 買いたたきの禁止とは
「買いたたき」(同法4条1項5号)とは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」をいいます。
下請代金が「著しく低い」かどうかについて、単なる市場競争の範囲内での価格設定であれば直ちに問題とはなりません。しかしながら、下請事業者がコスト増加(例:原材料費や燃料費の高騰)を具体的に示し、それが通常の市場価格に影響を与えると認められる状況では、「著しく低い」と判断される可能性が高まります。
このような場合、親事業者には値上げ交渉の協議義務があると解されています。それにもかかわらず、この協議を無視したり、一方的に価格据え置きを強要したりした場合、下請代金の額を「不当に」定めたと判断される可能性が高いです。親事業者としては、下請事業者の事情を十分に考慮し、協議を尽くすことが重要です。
3 冒頭のケースへのあてはめ
トラック運送業者(下請事業者)が、燃料価格の高騰を理由に、親事業者に対して運賃の値上げを要請したと仮定します。
その際、昨年に比べて燃料価格が現実に30%上昇しており、従来の運賃水準では赤字が生じるという具体的なデータが示されたとします。それにもかかわらず、親事業者が「当社の取引価格は変えない方針だから」「他の運送会社は値上げを求めていない」等といった曖昧な理由で交渉を拒絶した場合、「不当に」運賃を据え置いたとして、「買いたたき」に該当するおそれがあります。
他方で、親事業者が交渉のテーブルについた上で、「当社も荷主からの運賃引下げを求められている」「全体の物流コストを抑制しないと契約を維持できない」といった具体的事情を説明し、誠実に協議を行った結果として、運賃を据え置いた場合には、直ちに「買いたたき」に該当するとまではいえないでしょう。
4 対応策について~燃料サーチャージ制の導入~
燃料価格の変動に対応するための具体的な方策として、燃料サーチャージ制の導入が有効です。燃料サーチャージ制とは、契約時に基準となる燃料価格を定め、その基準を超過した場合には追加料金(サーチャージ)を運賃に上乗せする仕組みのことをいいます。これにより、燃料価格の高騰分を下請事業者だけに負担させるのではなく、親事業者と適切に分担することができます。
この制度を導入すれば、価格交渉のたびに都度対応する必要がなくなり、親事業者・下請事業者の双方にとって予測可能性が高まります。また、契約段階でサーチャージの計算方法や適用条件を明確化しておくことで、不要なトラブルや誤解を避けることができ、下請法上のリスクも軽減できます。
燃料サーチャージ制は、すでに大手物流会社や航空業界では広く導入されていますが、トラック運送業界においても今後の標準的な対応策として普及が期待されます。親事業者としては、こうした仕組みを積極的に検討し、取引の公正性と持続可能性を確保する姿勢が重要です。
5 まとめ
今回は、トラック運送業界における燃料価格の高騰と下請法との関係について解説しました。燃料サーチャージ制のような制度を導入し、外的コストの変動に柔軟に対応する仕組みを整備することが、長期的な信頼関係の構築と法的リスクの回避につながります。
本記事の内容についてお悩みの方は、ぜひ一度、物流分野に詳しい弁護士にご相談ください。

Last Updated on 2025年5月27日 by segou-partners-logistic