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運賃値上げを成功させるために― 標準運賃を活用した荷主交渉のポイント ―

1 はじめに

 物流業界では近年、運賃の見直しが必要とされる場面が増えています。輸送事業を取り巻く環境が大きく変化する中で、安定したサービスの維持と持続可能な事業運営を両立させるため、適正な運賃の収受をめざした取り組みが各地で行われています。
 以下では、国土交通省が公表する「標準的な運賃」を活用しながら、荷主との交渉を進めていくうえでのポイントを紹介します。

2 運賃値上げが必要とされる背景

 近年、ドライバーの高齢化や人手不足が深刻化しており、それに対応するかたちで労働環境の見直しが進められています。中でも2024年問題とされる労働時間の上限規制は、業界全体の輸送力に大きな影響を与えています。加えて、燃料費や車両の価格、保険料といった運行に関わるコストも上昇しており、従来の運賃水準では経営が立ち行かないケースも見られます。こうした背景から、運賃の見直しや値上げを検討する事業者が増えています。

3 標準的な運賃」とは

 「標準的な運賃」とは、国土交通省が令和2年より公表している、一般貨物自動車運送事業に必要な適正コストを反映した運賃の目安です。車種や走行距離に応じて、適切と考えられる運賃水準を数値化して提示しており、業界全体の健全な取引環境の整備を目的としています。法的な拘束力はありませんが、荷主との交渉において客観的な参考資料として用いられることがあります。

4 自社コストと標準運賃の差額確認

 運賃の見直しを検討する際には、まず輸送にかかる実際のコストを明確にする必要があります。人件費、燃料費、車両の維持費、保険料などを含めた総コストを把握し、運行単位での採算を検証します。その上で、「現在の運賃」と「標準的な運賃」および「実際のコスト」との間にどのような差があるかを整理し、合理的な運賃水準を算出することが、荷主との対話において説得力を高める材料となります。

5 荷主への交渉準備と資料作成

 交渉を行うにあたっては、事前の準備が欠かせません。運賃見直しの必要性を説明するためには、分かりやすく整理された資料が重要です。一般的には、自社コストの推移、標準運賃との比較、業界全体の動向、さらに輸送体制の維持に必要な要素などを明記し、単なる値上げ要請ではなく、事業継続や品質維持のための対話であることを明確にすることが求められます。

6 交渉の進め方(通知・提案・協議)

 運賃改定の交渉は、段階的に進めるのが一般的です。まず、改定の意向を文書や書面で通知し、その後、具体的な提案内容を提示します。その際、単なる数値の提示だけでなく、背景や理由を丁寧に説明し、荷主側の意見にも耳を傾けながら協議を進めることが、円滑な交渉につながります。

7 反対や懸念への対応

 荷主側から値上げに対して反対や懸念が示されるケースも想定されます。その背景には、予算上の制約や社内承認の手続き、他社との取引条件の差などがあるかもしれません。労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分を取引価格に反映せず、従来どおりに取引価格を据え置くことは、優越的地位の濫用又は下請法の買いたたきとして法令違反となる可能性もあります。もっとも、法令違反を正面から主張すると、荷主との関係性が悪化して、取引が打ち切られる可能性もあります。感情的な対応を避け、法令遵守の必要性を丁寧に説明しつつ、段階的な改定案や条件緩和案を検討するなど、柔軟な姿勢で協議を重ねていくことが重要です。

8 合意内容の書面化と記録管理

 交渉の結果、運賃改定に合意が得られた場合には、その内容を必ず書面に残すことが望まれます。代表的な例としては、運賃改定通知書や合意書、見積書などがあります。また、交渉の過程で取り交わしたメールや議事録も証拠資料として保存しておくことで、将来的なトラブルの回避にもつながります。

9 交渉がまとまらない場合の対応

 交渉が成立しない場合には、輸送事業者が採算性や経営の安定性を総合的に考慮し、案件の継続について慎重に判断するケースもあります。また、業界団体や運輸支局など、第三者の意見を参考にすることも一つの選択肢です。最終的には、自社にとって取引を継続するかも含めて最も望ましい形を模索する必要があります。

10 まとめ

 運賃の見直しは、単に価格を上げ下げする交渉ではなく、物流の安定供給を実現するための取り組みの一環です。標準的な運賃の考え方を活用しながら、荷主と輸送事業者が相互理解を深め、公平で持続可能な取引関係を築いていくことが、今後の物流業界にとって重要なテーマとなっています。

Last Updated on 2025年10月29日 by segou-partners-logistic

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