1 はじめに
トラック運送業においては、荷主や元請事業者と運送事業者の間で、運送条件や料金に関する認識の齟齬からトラブルが発生することが少なくありません。こうしたトラブルを未然に防ぎ、公正な取引関係を築く上で、契約内容を書面で明確にすることは極めて重要です。
また、法令の定めにより、下請法が適用される場合には発注書を交付する義務があるほか、貨物自動車運送事業法改正に伴い、運送契約締結時に、運送サービスの内容や対価などを記載した書面の交付が義務付けられました。
この記事では、運送契約時に書面を交付する必要性とその内容について解説します。
2 下請法
⑴ 運送業務は下請法の適用される取引です
荷主から委託を受けた運送業務を下請事業者に再委託をすることは、役務提供委託(下請法2条4項)にあたり、資本金の要件を満たす場合には下請法が適用されます。
また、令和8年1月に施行される改正下請法では、発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引も下請法の対象になります。
⑵ 資本金要件
ア 資本金が3億円を超える会社が、資本金が3億円以下の会社や個人事業主に運送業務を委託すると下請法が適用されます。
イ 資本金が1千万円超3億円以下の会社が、資本金が1千万円以下の会社や個人事業主に運送業務を委託すると下請法が適用されます。
⑶ 発注書面の交付義務
下請法が適用される取引において、親事業者は下請事業者に対して、発注後直ちに、発注内容、支払い条件(下請代金の額、支払期日、支払方法など)、業務範囲や条件等の内容を記載した発注書面(通称「3条書面」)を交付する義務があります。
発注書面の書式は自由ですが(デジタル書面とする場合には事前に下請授業者の承諾を得る必要があります)、内容については下請法3条や3条書面規則で定められています。
親事業者が3条書面を交付しなかった場合は、 50万円以下の罰金が科されることがあります。
3 トラック運送業における書面化推進ガイドライン
下請法が適用されない取引であっても、トラック運送業における契約の書面化は強く推奨されています。
国土交通省は平成26年に「トラック運送業における書面化推進ガイドライン」を策定し、①運送委託者が運送状を作成して運送受託者に交付すること、②運送を引き受けた運送受託者は運送委託者に対し、運送実施前に運送引受書を交付すること、③運送受託者は運送引受書を1年間保管する事を求めています。
4 改正貨物自動車運送事業法の施行
令和7年4月1日に施行された改正貨物自動車運送事業法では、運送契約締結時に、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む。)等についての書面交付が義務付けられることになりました。
改正貨物自動車運送事業法では、①真荷主(メーカー、卸売業者、小売業者等)と運送事業者が運送契約を締結するときは、書面を相互に交付すること、②運送事業者等が利用運送を行うときは、委託先の運送事業者への書面交付する事、③交付した書面についてその写しを1年間保存することが義務付けられました。
書面交付義務に運送事業者が違反した場合には、貨物自動車運送事業法第33条に基づく行政処分の対象となる可能性があります。
5 発注書面と運送状、改正貨物自動車運送事業法で交付を義務付けられる書面の関係
発注書面や運送状等について、別々に作成されることが義務付けられているわけではありません。
記載しなければならない事項には共通する点も多いので、1枚の書面の中に記載すべき事項をすべて記載してまとめてしまうことも可能です。
6 おわりに
運送業において、発注内容を書面で明確にすることは、法令遵守、トラブル防止、そして公正な取引関係の構築に不可欠です。
特に下請法が適用される場合は、3条書面の交付が法的な義務となるほか、改正貨物自動車運送事業によって新たに書面交付が義務付けられることにもなりました。
法令を遵守した書面を交付し、トラブルを防止するには、運送業に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。

Last Updated on 2025年6月20日 by segou-partners-logistic