1 はじめに
倉庫業者は、事前に自社の倉庫寄託約款を定め、国土交通省に届け出ることが義務付けられています。ただし、国土交通省が作成した標準倉庫寄託約款と同一の倉庫寄託約款を利用する場合には、届け出が不要となります。そのため、多くの事業者は標準倉庫寄託約款を利用しています。
倉庫寄託約款は、倉庫業者と寄託者の間の契約関係を定めるものであり、この約款があれば改めて基本契約を締結する必要はありません。しかし、標準倉庫寄託約款をそのまま利用してしまっては、トラブルになるケースもあり、そのようなに備えて、できれば基本契約を締結する方が望ましいでしょう。
この記事では、倉庫寄託約款と標準倉庫寄託約款について説明を加えた後、標準倉庫寄託約款のトラブルになりやすい条項について解説します。
2 倉庫寄託約款とは
倉庫寄託約款とは、倉庫業者と寄託者との取引(寄託契約)に適用される契約内容として、倉庫業者側があらかじめ定める契約条項です。先述のように多くの倉庫業者は国土交通省が作成した標準倉庫寄託約款か、それとほぼ同じ内容の約款を使用しています。標準倉庫寄託約款は、国土交通省のホームページで確認することができます。
標準倉庫寄託約款には、倉庫証券等の発券業者向けの「甲」と、非発券業者向けの「乙」があります。
3 標準倉庫寄託約款と民法改正
これまで寄託契約は要物契約(物の引き渡しを行って初めて契約が成立する契約)でしたが、近時の法改正によって、当事者の合意のみによって成立する諾成契約になりました。
しかし、標準倉庫寄託約款は、要物契約を前提としているため、改正民法と標準倉庫寄託約款のどちらが優先されるのかが問題となりえます。
国土交通省の通知(令和2年3月25日付国官参物第291号)は「業界の慣習としては要物契約が大宗を占めることや、民法の規定は任意規定であり慣習が優先されること等を踏まえ、標準倉庫寄託約款に関しては当面、現行通りとすることとする」として、現行の標準倉庫寄託約款を用いる場合には要物契約が維持されることになっています。
4 標準倉庫寄託約款の注意すべき条項
標準倉庫寄託約款(甲)を例に、標準倉庫寄託約款の注意すべき条項について説明します。
⑴ 賠償及び挙証責任
第38条 寄託者に対して当会社が賠償の責任を負う損害は、当会社又はその使用人の故意又は重大な過失によつて生じた場合に限る。 2 前項の場合に当会社に対して損害賠償を請求しようとする者は、その損害が当会社又はその使用人の故意又は重大な過失によつて生じたものであることを証明しなければならない。 |
標準倉庫寄託約款においては、倉庫業者の賠償事由につき、民法や商法とは異なり、倉庫業者側に「故意又は重大な過失」があった場合に限定するとともに、その立証責任を寄託者側に転換しています。
このことは、標準倉庫寄託約款において倉庫業者は入庫時及び保管時に貨物の検査を行わないことが原則となっていること、倉庫業者が設定する倉庫料金は扱う貨物の価格に比して安価であることが多いため、賠償責任を拡張したり、挙証責任を倉庫業者に負わせてしまうと、倉庫業自体が成り立たなくなるおそれがあることが根拠となっています。
この条項は、寄託者にとって不利な条項になってはいますが、仮に過失免責および立証責任の転換を特約で排除する場合、受寄者としてはいちいち寄託物の中身を確認しなければならなくなる可能性があり、検査費用等の為に寄託料も高額になるおそれがあります。また、倉庫業者の側から、寄託契約の締結を断られる可能性があります。
⑵ 引き渡しによる責任消滅
第44条 当会社は、寄託者が留保しないで寄託物を受け取つた後は、その貨物の損害について責任を負わない。 |
商法616条1項では、寄託者が異議をとどめないで寄託物を受け取り、保管料を支払ったときに倉庫業者の責任が消滅すると規定されているところ、標準約款では、寄託者が留保しないで寄託物を受け取った後は、貨物の損害について責任を負わない旨が規定されています。すなわち、保管料の支払いがなされていなくても、異議・留保なく寄託物を受け取った場合には倉庫業者の責任は問われないことになります。
また、商法616条但し書きでは、寄託物に直ちに発見することができない損傷又は一部滅失があった場合において、寄託者が引き渡しの日から2週間以内に倉庫営業者に対して通知をしたときは、この限りでないと定められていますが、標準約款には当該内容の条項がありません。
⑶ 保管方法
第17条 当会社は、受寄物を入庫当時の荷姿のまま当会社が定めた方法により保管する。 2 当会社は、寄託者の承諾を得ずに、受寄物の入庫当時の保管箇所又は保管設備の変更、受寄物の積換、他の貨物との混置その他保管方法の変更をすることができる。ただし、特約がある場合は、この限りでない。 |
保管方法について、標準倉庫寄託約款では、上記のように規定されています。そのため、寄託物の性質等により、保管方法について指定したい場合には、改めて契約を締結する必要があります。
5 おわりに
以上のように、標準倉庫寄託約款は民法・商法を倉庫業者有利に修正していますし、保管方法についても寄託者が指定することができません。そのため、標準倉庫寄託約款を修正し、改めて契約書を締結したい場合もあるでしょう。
寄託する際に標準倉庫寄託約款通りに取引を行ってもよいのか不安な事業者等や、寄託者から要求された契約の締結に応じてよいのか不安な倉庫業者は、倉庫業界に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。
Last Updated on 2024年2月21日 by segou-partners-logistic